現実是正フィールド

iPhone 4のアンテナ問題についてはもう最後、と言ったすぐあとに緊急会見の一報が入り、やっぱりもう一回、自分なりにまとめておきたかったので、今度こそ最後です。

ジョブズやその他アップル役員による緊急会見後、賛否の大嵐です。主に欧米においてですが。

ジョブズは「アンテナ問題は業界全体の問題だ」と主張。同様の問題はどの端末にも起こりうるものとして、実例を示されてしまったNokia、RIM、HTCは、早速反論を開始しています。

Telegraphが伝えているのは、RIM の Mike Lazaridis と Jim Balsille の “Apple’s attempt to draw RIM into Apple’s self-made debacle is unacceptable. Apple’s claims about RIM products appear to be deliberate attempts to distort the public’s understanding of an antenna design issue and to deflect attention from Apple’s difficult situation.”(失敗はアップルによるものなのに、それにRIMを引きこもうとするのは受け入れがたい。アップルのRIM製品に関する言及は、アンテナのデザイン問題の一般的な理解をねじ曲げ、アップルの苦境から注意を逸らそうとする手の込んだ試みであるようだ)という発言です。また、”One thing is for certain, RIM’s customers don’t need to use a case for their BlackBerry to maintain proper connectivity.”(一つ確かなのは、RIMのユーザーは電波の受信を維持するために BlackBerryにケースを使う必要などない)とも述べています。

同じ Telegraph の記事で、Nokia の “We prioritise antenna performance over physical design if they are ever in conflict.”(もし物理的なデザインの問題とアンテナの問題がかち合ったときには、われわれはアンテナの問題を優先する)という見解が示されています。

HTC は「われわれに対するクレームはずっと少ない」という見解を、アップルの会見のあと、示しています。

これらの反論を見ると、いずれのメーカーも、アンテナ問題がない、ということは断言していません。むしろ、問題があることは追認するかたちになっています。

私なりのまとめです。

アップルの製品を買う人の多くにとって、機能面はもちろん重要な条件ですが、デザイン性も非常に重要な要件です。そのデザインも、単に美しく愛でる、というだけのものではなく、生産性に大きく貢献するものです。

確かに、ジョブズが他社の製品を例示して「業界全体の問題」としたことを、RIM の見解のように見る向きはあるでしょう。私も、多少は RIM の意見に与する部分はあります。

ただ、iPhone 4 のデザイン問題がなければ、このアンテナ問題って、ひょっとしてずっと明るみに出なかった問題なのかもしれない、と思います。

アップルのファンにしてみれば、その部分を強くふさぐと(一貫性がなくても)問題があるのであれば、塞がないようにするだけの話です。それが、より多くのユーザー層が iPad と iPhone 4 によって開拓され、そうしたユーザーにも幸せになってもらいたい、とジョブズは言った。だから、バンパーを無料配布し、ソフトウェアでも対応する、と言った。

確かに、アップルが他社製品を引き合いに出したことは、潔くないように見えるかもしれません。ただ、iPhone 4 にアンテナ問題があることがわかり、それが大きく取り上げられはじめたときに、各社、自社製品における同様の問題については、何らかの理解はしていたはずです。

今回、問題が明るみに出た。iPhone 4 がなければ、この問題は、業界の問題にはならなかったかもしれない。ただ、iPhone 4 が、他社製品と違ったのは、製品の「デザイン」を重視する顧客層の支持が極めて強いということ。アンテナの問題が明るみに出たとしても、それを問題視しないユーザの方がむしろ圧倒的多数である。

BlackBerryはバンパーを必要としない、と RIM の人は言いました。iPhone ユーザーはなぜバンパーを必要とするのか。それは iPhone が機能的に優れているのに加えて「美しい」から。美しさを保ちたいから、バンパーを必要とするのです。BlackBerry にバンパーが必要ない、ということの意味は、それが単なるデバイスであって、それ以上の意味をユーザーが製品に見出していないからに過ぎません。そこから後は、ユーザーが何を基準に製品を選ぶか、ということでしかありません。ましてやリコールって。生命や財産の危機がしゅったいする問題なのかと。

Reality Distortion Field“(現実歪曲空間)とは、ジョブズの製品開発から発表、販売にいたるまでの、ファンを主に多くの人を巻き込んで社会を動かしていく手腕を指す、と言われます。もともとはアップルのバド・トリブルが、ジョブズの類まれなる話術や雰囲気づくりについて言及するときに用いた表現だとされますが、最近でもこの表現は Computer World の iPad についての記事や、TechCrundh のMG Siegler による記事(ここでは “Actual Distortion Field” になっていますが)などで用いられていて、ジョブズの、それこそ現実を「牽引」していく手腕が、象徴的に示されているのがよくわかります。

なんというか、今年については iPad から iPhone 4 と、立て続けに現実を引っ張りすぎて、ちょっと “distort” の度合いが強すぎたのかもしれなんじゃないか。今回の緊急会見は、ちょっと現実界のフォローアップができない域にまでに達してしまっていた “distort” 具合をむしろ修正する機会だったのではないかといいう印象を、私的には持っています。”Reality Correction Field”(現実是正フィールド)とでも呼びたい気分。

Nokia はデザインよりもアンテナの問題を第一に考えると言っていますし、アンテナ問題がどうしても気になるなら返金するとジョブズも言っているのですから、Nokiaの製品を買えばいい。一方で、アンテナ問題があったとしてもアップルのデザインと機能が気に入っているのなら、iPhone を使い続ければいい。消費者の意見を汲み上げるのにも、企業としての限度はある。私は、そもそも製品に問題があるとは思わないし、それでも問題があると主張する人への対応は十分していると思う。デザインと機能のバランスで、結局それがいい、と思うひとが使えばいいんです。自分の目的に合わないからといって、仕様を変えろ、ほらすぐ変えろ、なんて、他の製品で言ったならば、単なるクレーマーです。

問題を大きくしたのはメディアです。他メーカーもそれはとりあえず放置した。結果、アップルは、このアンテナ問題を「業界の問題」として提示することになった。そしてその問題の存在自体は、どのメーカーも否定していない。細部をつついてる。

今回のジョブズのプレゼンは、彼には珍しく、現実を「是正」する機会として機能したのではないでしょうか。

広告

8 Responses to 現実是正フィールド

  1. かずぼー says:

    賛成です。

    • zacky1016 says:

      かずぼーさん
      コメントありがとうございます。
      シンプルですが、心強いコメント、すごくうれしいです。
      今後ともよろしくお願いします!

  2. apple cat says:

    激しく同感です。(笑)

    RIMもNokiaもHTCもすでに同様の問題を知りながら、Appleが暴露するまでこっそりと対処していたことが明らかとなってしまったわけですから。この問題を知りながら販売し続けていたとすれば、それこそ「意図的および過失による不実表示」で訴訟ものです。(Appleはなんて余計なことをしてくれたんだ…彼らの恨み節が、いや失礼、我社だってちゃんと対応してますよ的な弁明が今回の声明のような気がします。)

    Appleに提案したいですね。
    次期iPhoneはまず米国以外の国から先行発売してくださいと。(笑)

    • zacky1016 says:

      apple catさん
      業界内での駆け引きがいろいろあるとは思うのですが、やはり本質を見逃すと、まずいことになる、という例なのかな、と思います。
      Googleなんかについては、外野がアップルとの対立を噂はしていますが、ジョブズは公の場であるプレゼンでは、そんなに悪口って言っていないんですよね。つまり、広告という一点については間違いなくお互いがステークホルダーであることを認識しているんですよね。今回にしたって、問題がある、と言ってはいますが、それぞれの製品自体についてはむしろジョブズは賞賛の言葉を述べている。いい製品だ、と。なのに、お互いが共通の問題として抱えているアンテナ受信の問題があるにもかかわらず、各社今回のような反論をする。RIMはスマフォの王者です。比較広告の対象として示されても文句は言えない立場です。その王者が、こういう感情的な反論をすることが、果たして得策なのかと、訝ってしまいます。
      ホント、いい提案ですね(笑)。次は是非、日本先行発売して、って。賞賛の嵐が吹き荒れますよ(笑)。

  3. kentaro_jp says:

    いつも考えさせられる記事を有難うございます。
    同意です。メディアは騒ぎすぎなのは今回とても感じました。
    バンパー無償配布の件がYahooニュースで出ていた時はびっくりしました。
    いつもこんな事話題にしてたかなと。
    ジョブズは今回の問題について明確にしてくれたのがスッキリしましたね。

    • zacky1016 says:

      kentaro_jpさん
      返信遅くなり申し訳ありません。
      何日かして、落ち着いてきた感じですね。
      各メーカーとも反論はしたものの、本質的には何も自己弁護できておらず、かえって問題の根深さを露呈させているだけのような気がします。
      かつてMSが、あるいはGoogleが受けていたようなメディアをはじめとする業界内外からの攻撃を受けるケースが増えるのは間違いないでしょう。私としては今回のアップルの対応は十分及第点だと思います。技術メーカーとしての矜持を、アップルには忘れずに持っていてもらいたいなと思います。

  4. reirou says:

    iPhone 4問題:Appleの主張に他社が反発する理由
    http://wiredvision.jp/news/201007/2010072222.html

    他メーカのは電波の「吸収」であり、iPhone 4のは「インピーダンスの不整合」なんですよね。「吸収」はあらゆる携帯電話(というか無線機器全般)で発生しますが、「インピーダンスの不整合」はiPhone 4のみの問題です。他メーカが「言いがかりだ」って反応するのも仕方ないかな、と思います。

    アップルもマズいと思ったのか、件のページを削除しましたね。

    Apple、「他社端末も同じ」アンテナ検証ページを削除
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1008/02/news059.html

    私はアップルの製品は大好きですが、アップルのこういう時の姿勢には、ちょっと疑問を感じざるを得ません。好きだからこそ、おかしいことをしでかしたときには苦言を呈して行きたいものです。

    • zacky1016 says:

      reirouさん、コメントありがとうございます。
      なるほど、徐々に問題の本質にたどり着いている感じですね。経緯から察するに、おそらくreirouさんのおっしゃるような事情があると推察されますね。ただ、いずれにせよ各社問題がある事自体は確かだということは確認しておかないといけないと思っています。
      このあたり、私のブログでのスタンスに関係することでもあり、機会を改めて記事にしますね。
      ご指摘ありがとうございました。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。