スカリー、ジョブズについて語る(2)

というわけで、Cult of Macによるスカリーへのインタビュー、続きです。

************

Q:ナイキに例えるのはどうですか?

スカリー:ああ、そうだね。近いかもしれない。あの時代の日本の消費者家電メーカーは似たような仕組みを持っていた。

スティーブが賞賛していたのはソニーだ。スティーブと私はよく盛田昭夫氏を訪ねたものだ。彼はスティーブと同じように製品づくりに対する要求水準が高く、そして美しい製品をリスペクトする人だった。彼はスティーブと私にウォークマンの初代機をくれたんだ。見たこともないものだった。なぜって、それまでそんな製品がなかったからだ。25年前のことだ。スティーブは魅了されていたよ。彼がまずやったのは、それを分解してひとつひとつの部品を調べ、嵌合がどうなっているか、仕上げはどうか、そしてどう組み立てられているかを調べることだった。

スティーブはソニーの工場にも魅了されていた。私たちは中を見て回った。人々は違う色の制服を着ていた。赤、緑、青など、担当によって着る制服が違っていた。全てが考え抜かれていて、塵一つ落ちていなかった。こうしたことが彼に強烈な印象を与えたんだ。

マックの工場が、まさにこういうものだった。色違いの制服はなかったが、私たちが見た初期のソニーの工場と同じように、あらゆる面ですばらしい工場だったんだ。彼は、心底ソニーになりたい、と思っていたんだ。IBMじゃなく。マイクロソフトでもない。彼の目標はソニーだったんだ。

問題はあの時代、デジタル製品をソニーが作っていたような方法で作ることができなかった、ということだ。全てはアナログ。物に対してアプローチする方法が重要で、ミシガン大学のプラハラード教授の本を読んで参考にした。(注:『コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略』のこと)スティーブもこれを研究した。

日本人は部品の市場シェアから手をつけ始めた。ある会社はセンサを、別の会社はメモリを、ハードドライブを、と言う具合に。そしてそうした部品市場としての強さを底上げし、最終的な製品づくりにとりかかる。コスト削減に的を絞ってアナログ製品を作ろうとするときにはこれは有効だ。そして、主要な部品をコントロールする会社は優位に立てる。しかしデジタル製品にはこれは通用しない。なぜなら、同じ方法でやると誤った価値連鎖を引き起こしてしまうからだ。部品からスタートするのでもなく、ユーザーエクスペリエンスからスタートするのでもなくなってしまう。

コンシューマ向けエレクトロニクス産業の出現とともに、少なくともここ15年にわたりソニーが深刻な問題を抱えるのを私たちは見てきた。組織が縦割りになってしまった。ソフトウェア、ハードウェア、部品、デザイン、どのチームもお互いに隔絶された環境にあった。それぞれが組織として折衝したが、それぞれが大きい組織で、官僚的な仕事になってしまった。

ソニーが今のiPodのような製品を出してもいいはずだったが、そうはならなかった。それをしたのはアップルだった。iPodは、ユーザーの目線で発想し、システムを隅から隅まで見渡すところから始めるスティーブ・メソッドによる産物の典型なんだ。

スティーブは常にシステム全体を見渡せるところにいた。実際のデザイナーではなかったが、いいシステムづくりに長けていた人物だった。これは他の会社にはあまりみかけない要素だ。たいていは、得意分野に集中し、その他は外注するものだ。

中国までにも及ぶiPodのサプライチェーンは、iPodという製品そのものと同じぐらい洗練されたものだ。ユーザーのための製品デザインと同様に洗練されたサプライチェーンのデザインを完璧に構築するという難題を彼らは解決しているんだ。全く違うところから発想しないといけないことであるにもかかわらず、だ。

Q:製品を開発するアイデアを、そして、システム全体を統括するためのアイデアを、彼はどこで手に入れていたのでしょう。

スカリー:システムをオープンにすれば、人々はあまり変化を欲しなくなり、結果、作ろうとしているものへの妥協が生まれ、彼が欲しいと思っている製品が作れなくなる、というのがジョブズの信じるところだったんだ。

Q:しかし彼は製品の細部にまで口を出します。箱を開ける、といったことにまで。箱を開ける、という経験もスティーブ・ジョブズによって用意されたものです。

スカリー:最初のMacにはOSは含まれていなかった。みんな言うよ。「なぜライセンスを出さななかったんだ」ってね。答えは簡単だ。OSが無かったんだ。すべてがハードとソフトの機能だけで処理されたわけだ。当時のマイクロプロセッサは今の物に比べると格段に劣るものだった。グラフィクスを処理しようとするとプロセッサのパワーを使いきらないといけなかった。他の機能をアンロードしようと思うなら、さらにチップを貼り付けねばならず、そしていわゆるROM呼び出しをしなければならなかった。400回のROM呼び出しを、リアルタムで処理する方法などなかったからすべてサブルーチン化して行った。これらのことがうまく行われた。Macに最初に積まれたプロセッサが3MIPs以下の能力しか持っていなかったことを考えると、これはとんでもなくすごいことだ。もちろん今は、これだけの能力しかないマシンを見つけることすらできない。デジタル時計ですら初代のマッキントッシュより200倍も300倍もパワフルだ。(参考までに、現在のCore i3は40,000MIPs以上)

当時の極めて限られた条件で、スティーブがいかに多くのことを成し遂げようとしていたか。想像もできない。だから、1980年代にコンシューマ向け製品を作る人間にとっては、われわれが初代のMacで成し遂げた以上のことをするのは事実上不可能だった。1990年代に入り、ムーアの法則やテクノロジーの均質化といったことが取り上げられ、コンシューマ向け製品がどのようなものになるかのイメージを持つことが可能にはなったが、しかしそれを実際に作ることは出来なかった。現実的には、90年代の終わりあたりまでは、コンシューマ向け製品をどう商品化し、かつ小型化するかというせめぎ合いのなかで、適正な部品のコストを導くのは難しかったはずだ。そして突然、コンシューマ向けデジタル製品と本当に呼べるようなものをつくることが可能になるところまでパフォーマンスが上がってきた。25年前、スティーブの頭にあった方法論は正しいものだった。正しかったからこそ彼の第一原理であるデザインメソッドを確立できたんだ。その方法論はユーザーエクスペリエンスについてのものであり、詳細まで突き詰め、システムを見渡し、妥協せず、他のメーカーと比較するのではなく精巧な宝石と比較する、というものだ。こんな判断基準は誰の頭にもなかった。誰もが、安物の製品にパワーを与えてさらに安くするという進化の方向にしか目が向いていなかった。MP3プレーヤーがいい例だ。iPodが登場する以前にもたくさんのプレーヤーがあったが、今その製品の名前を思い出せる人間は少ないだろう。

トレードオフがあったとすれば、彼がシステム全体をコントロールしないといけないと信じていたことだ。彼が全て決定した。箱は閉じられていた。

 

Q:しかし、ユーザーエクスペリエンスがその動機だったのでは?

スカリー:そのとおり。DTPであれiTunesであれ、ユーザーエクスペリエンスがシステム全体を通底するものだ。全て、統括されたシステムの内部にある。製造についてもそうだ。サプライチェーンも。マーケティングも。ストアも。私が呼ばれたのも、私がデザインの知識を持っていて、かつマーケティングに通じていたからだ。私には製品マーケティングの経験があった。私がコンピュータの知識を持っていたからではない。

Q:それは興味深いですね。あなたはご自身の著書で、アップルをなによりも「製品マーケティングの会社」にしたかった、と言っていますね。

スカリー:そのとおりだね。私がアップルに入る前、スティーブと私は何ヶ月もお互いを知るために費やした。彼には自分で手がけたもの以外をマーケティングした経験がなかったから。これも彼の特徴だ。彼が重要だと思うことが何かあれば、彼は徹底的にそれを吸収しようとするんだ。

彼の興味を引いたことがある。私は彼に、ペプシとコカコーラにはそれほど違いがない、なのに売上は9対1の差だ、と説明した。私たちの仕事は、ペプシは注目に値するものだと人々に革新させて、最終的にそれを選んでもらう、ということだった。私たちが取ったのは、ペプシをネクタイのように考えてもらおう、という戦略だった。あの時代、人々はネクタイにとても気をつかっていたんだ。ネクタイが「こんなふうに君に僕のことをみてもらいたいな」というサインだった。だから、ペプシをネクタイに見立てようとした。手の中にあるペプシが「こんなふうに君に僕のことをみてもらいたいな」と、見ている人に思わせるようにしたんだ。

リサーチを行ってわかったことがあった。家で友人らに飲み物をふるまうときに、コカコーラの場合、キッチンに行って冷蔵庫を開けてコカコーラのビンを取り出してテーブルの上に持って行ってゲストの前でビンからコップに中身を注ぐ。一方ペプシの場合、キッチンに行き、冷蔵庫から取り出すと、そこで栓を開け、キッチンでグラスに入れて、グラスだけを客人の前に出す。つまり、ペプシを出していると知られるのが恥ずかしいと思う人々がいる、ということがポイントだった。恐らく、コカコーラだと思われるほうがいい、とその人たちは思っていた、ということになる。コカコーラのほうがいいネクタイだった。スティーブはこの考えに興味を持った。

私とスティーブは、認識がいかに現実をつくり、現実をつくるには、どのような認識を持ってもらえればよいのかについて、多くを議論した。そして、それを、ペプシジェネレーション、という言葉で表現したんだ。

60年代の文化人類学者のマーガレット・ミード博士に私が学んでいたのは、マーケターは多くの中流階級、いわゆる団塊の世代の出現を重要な事実としてとらえておくべきであるということであり、彼らは今60歳を迎えようとしている。彼らは収入を自由に使えた。生きるため、以外のことに彼らはお金を使えたんだ。

ペプシジェネレーション、という言葉を作ったが、それはもちろん飲み物のことではなく、ターゲットにしていたのはそれを飲む人間、その人間のマインドだった。

コカコーラは常に飲み物そのものに焦点を当てている。私たちはそれを飲む人に焦点を当てた。私たちはダートバイクや水上スキーをしている人や、凧を上げハンググライダーをしている人の姿を見せた。いろいろと違うことしている人の姿をね。そしてそのご褒美として、ペプシを飲むことができる。カラーテレビが普及し始めたころのCMだ。私たちが初めてライフスタイル・マーケティングと呼べる手法を採用した。最初の、そして最も長くつづいているライフスタイル・マーケティングを行っているのがペプシなんだ。

カラーテレビが出てきて間もなく、そのコマーシャルが19インチの大画面テレビに映し出された。白黒の小さい画面のテレビに映るCMを作っていたテレビ専門の業者には頼まなかった。私たちが向かったのはハリウッドだった。最高の映画監督に会い、60秒のCMを作ってくれ、といった。ライフスタイル提案の映画だ、と。全てはペプシが一番だという認識を持ってもらうためのものだった。自分が一番だ、と思わなければ、一番になんかなれない、という認識をね。自分を一番に見せなきゃならなかったんだ。

スティーブはこの考えが気に入った。いろいろとやることはあったが、いつMacを市場に出すかにはとくに力点を置いた。期待度を最高レベルまで高める。どんな製品で、何が出来るものなのか、みんなが知りたくてウズウズするまで。確かに最初の製品は多くのことはできなかった。テクノロジーのほとんどはユーザーエクスペリエンスのために応用されたものだから。こんなのおもちゃだろう、と言われることもあった。なにもできないじゃないか、と。しかし最終的には、テクノロジーがパワフルになるについれ、何でもできるものになったんだ。

**************

聞いたような話もあるし、なるほど、と思う話もありました。

しっかし、最後の段落あたり、初期の製品は結局UXを尊重するあまりいろいろと犠牲にしていた、ということはまあわかりますが、読みようによっては、今、iPadという製品をある種の極みとして、ジョブズが考えていたUX至上主義が花開いた、それまでの製品はいわばそのための布石だった、みたいにも読めてしまうのが、なんともスゴイことだと思うんですが。それは言い過ぎだとしても、そういうシナリオを描かせてしまうのが、やはりジョブズの天才たる所以なのか、と思ったりもします。

それにしても、友人の前でペプシをふるまう件、そういう時代もあったんだな、と感慨深くなりました(笑)。

それと、ソニー。往年のソニーファンとしては、なんというか、こみあげるものが・・・。

文系な私にはいまひとつよくわからない部分があるので、解釈が変なところ、是非ご指摘いただければ幸いです。

広告

4 Responses to スカリー、ジョブズについて語る(2)

  1. ピンバック: Tweets that mention スカリー、ジョブズについて語る(2) « 田園 Mac 〜Mac Pastorale〜 -- Topsy.com

  2. isaac says:

    >>the bicycle for the mind
    掌田津耶乃氏の15年ほど前の著書では、「知的自転車」と表現していました。鷹と人間の運動(エネルギー)効率は400倍ほど違うが、人間が自転車を使うと、効率を何百倍にも出来る、と。

    • zacky1016 says:

      Isaacさん、いつもありがとうございます。
      なるほど、ですね。やはり訳には割り切りが必要ですね。私は “mind” という単語を訳すのが嫌いです(笑)。知性なのか感性なのかその両方なのかで悩んで結局「マインド」とやってしまうことが多いんですが、やはり知性に振った解釈が正しいでしょうね。流布されている言葉ですし、カッコつきで補足しました。

  3. ピンバック: Top Posts — WordPress.com

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。