Appleのトラック

iOSの年、と言っても過言ではないような2010年も終盤にさしかかった10月下旬、アップルCEOのスティーブ・ジョブズは “Back to the Mac” を宣言しました。iLifeを発表、2o11年発売の新OS X (Lion) 紹介、そして、長くアップデートが待たれていた新パッケージのMacBook Airが登場したわけです。アップルの真骨頂はここにあり、といった具合にMacの存在感が極限まで高められたイベントでした。

にもかかわらず。

MacWorldのJason SnellがComputerWorldに Apple’s Truck という記事を書いているのですが、今後Macがずっと今のような状態を保っていくのかといえば、やはりいずれはMacの一部はiOSに限りなく近いような特徴をもつものに変化していくのではないか、と主張しています。この変化はすぐには起こらないが、いずれは「iOSで動く伝統的なコンピュータ」をアップルが作るであろう、としています。今年6月に行われたD8カンファレンスでジョブズが “PCs are going to be like trucks”(PCはトラックのようになっていくだろう)として、こうした変化に不安を感じる向きもあるだろう、と言ったことを引き合いに、アップルのコンピュータ製品は2極化していくのではないか、という予想をしています。

ひとつは、「普通の人々」のための方向性。つまり、メールやウェブブラウズ、ゲーム、仕事用の文書作成、などといった情報ツールとしてのMacのありかた。世の大方の(たぶん数十億人の)人々が使う目的はこれであり、こうした人々はジョブズにとっては「乗用車」のドライバーである。そしてこうした人々が使うデバイスはiOSが請け負うだろう。iLifeやLionがiOSスタイルの単一ウィンドウのインターフェースを採用するのはこの先駆けになる。

もうひとつはトラックドライバーのためのもの。より強力なパワーでコンピュータを操作する。カスタマイズし、自動化し、システムの深層までを使いこなし仕事をこなす。(あるいは仕事では必要ないが、楽しみのためにトラックを運転したいと思う人もいる。)アップルがこうした方向性を廃止することはないが、現在あるMacの方向性はこちらである。(ヘビーな作業をMacでできるようにすることでiOSを軽くすることができる点についてはJohn Gruberも指摘している。)

事実上、コンピューターユーザをこのように2分化することは可能であり、長い間実際そうであったが、コンピュータ産業は、こうした2分化に対応しきれていなかった。ただ、日常の作業だけできればいい、と思っている「普通の」ユーザにも過剰なシステムを強いてきた。そもそも初代のMacからずっと、ジョブズ(すなわちアップル)のヴィジョンは “computer for the rest of us” を提供する、というものだった。

というのが、ComputerWorldの記事の主なところです。

そういえばジョブズはコンピュータを “bicycle for the mind” とも言っていましたね。車より軽い(笑)。

乗ること自体に頭を使わなければならないような、あるいはメンテナンスにやたら時間のかかる自転車に、普通の人は乗らない。デバイス自体は、目的ではない。何かの目的を果たすためのデバイスとして、コンピュータを使う。

ただ、愛着のある自転車なら、いつもきっちりメンテナンスして、きれいにみがいて、いつでも気持よく乗れるようにしたい。私にとってのアップル製品は、まさにそんな感じだな、と思います。

Toronto Starは、“It’s all about apps” という記事で、ソフトウェアの配布についてはApp Storeのようなワイヤレスハブを通じて行われるようになる、アップルもGoogleもRIMもMicrosoftも、方向性は同じだ、とやはりアプリケーションソフトのあり方に関する示唆をしています。iOSの目玉機能であるAppStoreがどれほど充実するかによって、iOSの、またiOSが実装されるであろうMacOSの利便性が、そして普及が左右されることは言うまでもないでしょう。

そういえば新MacBook Airが出る前に、これに乗っかるOSに関していろいろと憶測されましたが、本ブログではOS X「が」iOS「に」統合される、という逆転の方向性を示したComputerWorld の Jonny Evans の記事を紹介していました。次期OS Xの発表によって明らかになったことは、OS XにiOSの機能が統合される、という、考えて見れば当然の成り行きともいえる方向性でした。

ならば、以降問題になってくるのは何か。私的には、平成鸚鵡籠中記さんも紹介されていましたiPadとノートのハイブリッド製品(このパテントについては、上のJonny Evans関連の拙記事に、その原型となるパテント情報があります)あたりが(ひょっとして)発表されるころが、ひとつのポイントになってくるのかな、という感じがします。

現時点では、キーボードをつけたとしても、ヘビーな文書編集の作業などにはiPadはまだかなり力不足な感じがします。iOSが今後、メールやウェブブラウズ、ゲーム、仕事用の文書作成、などといった情報ツールとしての機能を、マルチタスクを含めてどの程度までブラッシュアップしてくるかによって、私のようなヘビーな文書編集を日常的に行うユーザがiOSオンリーな環境に移行できるかどうかが決まってくる気がします。

(タイトルとの整合性がいまいちだったのでここから追記)

ComputerWorldの記事の最後にはつぎのようにあります。

There will always be computing truck drivers out there–and I know that most readers of Macworld fit in that group. Steve Jobs clearly believes that there will always be a need for the computer industry to build trucks. The only question is, does Apple want to remain in the truck business for the long haul? If it does, the Mac will have a good future as Apple’s truck.(コンピュータ業界のトラックドライバーは常に存在する。MacWorldの読者のほとんどは、このグループの人たちだ。コンピュータ産業がトラックを作る必要性はつねにある、とジョブズが考えていることはあきらかだ。ただ、唯一の疑問は、長期的に見てアップルがトラックビジネスに留まりたいと思っているかどうかだ。もし思っているなら、アップルのトラックとしてのMacの未来は明るいだろう)

たしかに、iOSデバイスが完全に単独で使えるようになった場合、iOSデバイスはMacOSに依存する必要がなくなる。iOS的な作業で十分、という人にとっては、母艦の存在はむしろ目障りだったりするし、母艦が必要だから、それが面倒くさいから、モバイルを買わない、というような人も結構多い気がします。

私は、ライトなトラックユーザーといったところかな。Macは仕事で使うけど、楽しいから使う、という側面もあるし、iOSも使う。やはり、トラックユーザーのための品揃えをアップルが無くしてしまう、というのは、考えにくいところです。

(追追記)

ジェイソン・スネルも上で引用していたグルーバーの記事“What’s with the Mac doomsayers?”について、maclalalaさんが記事を書いていらっしゃいます。スネルの記事はMacWorldの記者としてグルーバーの記事に反応した意味合いもあるようですので、合わせてご覧いただければと思います。

5 Responses to Appleのトラック

  1. Josef より:

    解りやすい説明で私の様な aged engine にも-すとんと-理解出来た様な気がしました。
    iMac とiPad を使ってみての感想ですが、現在の iPad はあくまで Music (アプリやガジェット)プレイヤーで、Music(アプリ)間の連携は殆ど無く、Palm や Clie 等の PIM 的な性格から完全には離陸していない様な気がしています。もっとも離陸するためには、バッテリが更に改善されて、もっと高性能な CPU や大容量のメモリが搭載され母艦から独り立ちする必要があるのでしょうか。
    そして、Apple がマウス+タッチパッドとタッチパネルという互いに異質な UI をどう統合させるかにも興味津々です。ひょっとして、OSX + iOS = iOSX の時代には、iMac のディスプレイは水平に置かれて、27-inch iPad もどきになるのかも、などと愚考しています。

    • zacky1016 より:

      Josefさん、ありがとうございます。
      そう仰っていただいて、うれしいです。これからも、身の丈に合った(笑)記事を書くつもりです。
      大画面タッチパネルデバイスという発想は、これからもっと出てきてもいいような気が私もしています。垂直のディスプレイに手を伸ばす可能性についてはジョブズが人間工学的に否定していましたが、平面なら問題ないですしね。

  2. Takao Matsunaga より:

    いつも楽しく拝見しております。

    文の趣旨とは離れてしまい、どうしようか迷ったのですが、
     「現時点では、キーボードをつけたとしても、ヘビーな文書編集の作業などにはiPadは
      まだかなり役不足な感じがします。」
    とあるところは誤用ではないかと愚考いたします。
     はてなキーワードによれば
      「正しい意味は、「素晴らしい役者に対して、役柄が不足している」という意味、つま
       り能力のある人につまらない仕事・簡単な仕事をさせるという意味なのですが、最近
       は逆の意味で使われることが多く、アンケート調査などでも日本人の半分が逆の使い
       方で覚えているようです。
      (ただ最近は、逆の意味で使われていること自体はよく知れ渡っており、逆なのを承知
       の上で使っている人が多いと思われます。[要出典])
      「この人には荷が重い」というような使い方をする際は、「力不足」「役者不足」が正
       しい。
    とあります。
    私も古い人間で、どうしても引っ掛かりを感じます。
    (はてなで言う「役者不足」という言葉もあまり使われないような…。)

    本当につまらない指摘でごめんなさい。

    • zacky1016 より:

      Matsunagaさま、ご指摘ありがとうございます。
      日本語の誤用、私も気になる方で、気を付けているのですが、ふと出てしまうことがあります。ご指摘は非常にありがたいので、これからもよろしくお願いします。
      まあ、いろいろと役に立ってくれているiPadに「力不足」と言ってしまうのがちょっと気が引けてしまうのも、確かなんですが(笑)。

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